「タブラチュア」はリュートなど古典的な撥弦楽器を演奏する際に用いられる奏法譜のことを意味します。ロックやポップスギターでも通称「タブ譜」と呼ばれているものが使われますが、基本的なシステムはほぼどちらも同じです。視覚的に見て分かるように「押弦するポジション」「弾く弦」「リズム」が併記されており、ドイツ式、イタリア式、フランス式など複数のシステムが歴史的には用いられていました。
読み方を知らない人からすると「意味不明」なタブラチュア。でも慣れてしまえば便利な物ですし、また歴史的にそれらが用いられていたわけなので、現在でもリュートなどを演奏する際には使用されます。ただ音のつながりや、その音がどこまで伸びているのか、という事に関して「五線譜」ですと一目瞭然ですが、タブラチュアの場合は実際に演奏してみないと分からない部分も多くあり「慣れ」が必要でもあります。(なお通奏低音をする際は、タブラチュアではなく、普通の五線譜を使います)
当時の手書きや出版されたタブラチュアは、現在ではパプリックドメインとしてWeb上で公有されているものも多くあります。その一部は当ホームページのリュート音楽の作曲家たちよりご覧頂く事が出来ます。中には少々見難かったり、誤植があったりするものもありますが、愛好家が楽しみで用いられる分にはあまり気にされることもないでしょう。またリュート関係の専門出版社として著名ながら、惜しまれつつ2020年に廃業したTree Editionの出版物も現在こちらよりご覧頂けます。

ドイツ式タブラチュア(H・ノイジドラー)
ドイツ式タブラチュアの特徴は指板の各ポジションにそれぞれ個別の文字(記号)が割り振られている事です。それらはおよそ48個ほどあり、覚えるのが容易ではないシステムであったせいか、主に16世紀のドイツ語圏で用いられるに留まりました。「リュートの歴史、理論、実践的な考察 / 1727年」の著者として知られているドイツ人リュート奏者のE.G.バロンも、そこで「古いドイツのタブラチュアは単に眺めるという役にしか立たない」と嘆いています。

イタリア式タブラチュア(F・ダ・ミラノ)
イタリア式のタブラチュアは主に16世紀から17世紀前半のイタリア、スペインで広く用いられました。現代のギターで用いられるタブ譜と同じく、それぞれのフレットは数字(0,1,2…)で表記されています。異なるのは一番下のラインが高音弦で、一番上のラインが低音弦を示している点です。向かい合わせの鏡に写った左手の押弦状態が表記されているので、通常の五線譜の感覚(高音は上部、低音は下部)とは逆になります。音楽的に理解するには、その齟齬を回避するための慣れが必要となります。

フランス式タブラチュア(R・ド・ヴィゼー)
フランス式タブラチュアは16世紀を通してフランス語圏やイギリスなど様々な国で用いられていました。フレットのポジションをアルファベット(a,b,c…)で表す点を除けば、現代のギターで用いられているタブ譜とほぼ同じシステムです。17世紀前半から始まるバロック式調弦(ニ短調)のリュートでも、国の違いを超えて大半がこのタブラチュアで記譜されています。現代においては複数のタブラチュアを読みこなすのが大変なので、元々がドイツ式やイタリア式であったものをフランス式に書き直して用いられる場合があります。
