先日、プライベイトな集りの会で演奏する機会がありました。バロック・ヴァイオリンの知人と私(テオルボ、バロックギター)のデュオでお伺いし、幸い会場の皆さんにもまずまずお楽しみ頂けたようでした。そんな機会があったものですので、ヴァイオリンとギターについてほんの少し綴ってみたいと思います。
ヴァイオリンとギターは共に弦楽器ではあるのですが、起源、弓の使用有無、調弦の間隔(5度と4度)、音楽的な役割、音量など多くの点で違いがあります。クラシック畑で活躍するヴァイオリンと、大衆的で身近なギターというイメージの違いもあるかもしれません。
今回の集まりではN.マティス(c.1650-1713)の曲を中心に演奏しましたが、彼なんかは意外とそれらの楽器がリンクする作曲家となります。生まれはイタリアのナポリですが、ロンドンに移り住み、その地で「コレッリの再来」ともてはやされ、ヴァイオリン奏者として活躍しました。一方で「音楽の奇妙な和音 / The False Consonances of Musick」という何とも風変わりなタイトルが付けられたギターの為の通奏低音教本を1682年に出版しております。本職はヴァイオリン奏者ですが、教本を残すくらいなのでギターにも精通していたのは間違い無いでしょう(ほんの数曲ですが、ソロ曲も入っています)。また彼の作曲したヴァイオリンソロのアリアやチャコーナなどはギターで通奏低音をすると非常に効果的な曲もあります。もしかするとこの手の楽器で通奏低音する事を想定して作曲したのかもしれません。
ところで「ヴァイオリンで最も有名な楽器は?」と聞かれたら、多くの人は(音楽にあまり興味がない方も含めて)「ストラディヴァリウス」という名前をあげるでしょう。現在では目玉が飛び出るような金額で取引されている楽器として有名ですね。ストラディバリ父子はヴァイオリンの他、ヴィオラ、チェロ、マンドリンなども製作していましたが、実はギター(バロック)も作っておりました。これは意外と知られていないので、この話をすると皆さん驚かれます。なお彼らによって1679年に作られた「サビナオリ」は現在でも演奏可能な保存状態で、録音に使われたりしています。詳しくはこちらをご覧下さい。現代の製作家がバロックギターのレプリカを作る場合、このストラドモデルはある種の定番となってるのではないでしょうか。
時代は少し下りますが、18-19世紀に活躍したヴァイオリンの鬼才N.パガニーニ(1782-1840)はギターも演奏し、ヴァイオリンとギターの為のソナタや、室内楽を複数残しています。通常ヴァイオリンの伴奏をギターがするわけですが、彼の曲の中にはこの役割をひっくり返して、メインのギターにヴァイオリンが伴奏する、なんて曲もあるくらいなので、ヴァイオリンのみならず、ギターも相当弾けたのでしょう。当教室の生徒さんでも学生時代にヴァイオリンをやっていた方で、すんなりギターも弾けるようになった人がいらしたので、左手に関してはある種の互換性があるのかも知れません。
接点がないようで、ひょんなところで結びつきがあるヴィオリンとギター。ヴァイオリンの原曲をモダンギター用にアレンジしたものも多数ありますし、上で紹介した話以外にも色々な結びつきがあることでしょう!