オンライン 通奏低音、リュートソング、アンサンブル、古楽、音楽教室 リュート クラシックギター ウクレレ 池袋 蕨 川口 東京 埼玉 レッスン バロックギター ビウエラ

ビウエラを抱えたオルフェオの図(中表紙より)

ルイス・ミラン(Luys Milan / c.1500 – c.1561) によるビウエラ曲集「先生 / El Maestro」は1536年にスペインで出版されました。ビウエラというのは16世紀のルネサンス時代に主にスペインやイタリア・中南米の一部で演奏された6-7コースの撥弦楽器でした。ものすごく大雑把な説明だと、形はギターみたいな8の字型、調弦はルネサンスリュート、といったところでしょうか。現存しているものは4点のみとなります(グアルダルーペ / Guadalupe、マリアニタ / Marianita、シャンブール / Chambure、ディアス / Diaz)。ただ、それらの楽器は4者4様の弦長や形状の為、楽器に関してはさらなる研究が待たれるところではあります。

「El Maestro」は世界で初めて出版されたビウエラ曲集でした。ファンタジア、パヴァーナ、ティエントなどのソロ曲と、ヴィリャンシーコ、ロマンス、ソネートなどのビウエラで伴奏される歌曲が掲載されており、合計72曲が2巻に分けて出版されました。タイトルからもお察しの通り、この曲集には教育的な意図もあったようで、巻頭で”本書は順序良く、系統立てて、正しい道へと導いている。初めは全て平易な曲であるが、本書を進めれば難しい曲も容易に達成出来るであろう”と述べています。ただ冒頭1曲目のファンタジアがすでに3声の曲なので、平易とは言え現在の教則本とはだいぶ趣が異なります。

この曲集の一つの特徴は個々の曲に「テンポ / Tempo」と「旋法 / Tones」についてそれぞれ数行の解説を添えている事です。テンポに関してはコンパス・ア・エスパスィオ(compas a espacio / 遅く)、コンパス・ビエン・メスラド(compas bien mesurado / 適度に)、コンパス・アプレッスラド(compas apressurado / 速く)などが記されているが、コンパス(いわゆるタクトゥスのことで、1タクトゥスは1小節に相当)に関するテンポという点には注意が必要です。また各曲にそれぞれの旋法(曲によっては旋法をミックスしたtonos mixtosも)が記されている事からも「音楽の基礎や作曲者の意図を踏まえた上で演奏しなさい!」というミラン先生の教育的配慮なのかもしれません。

冒頭の巻頭文ではカント・デ・オルガノや調弦の方法、タブラチュアやコンパスなどについて説明しています。ビウエラの初学者はまずはカント・デ・オルガノ(canto de organo / 定量記譜法によるパート譜 )を学ぶことを薦めています。今風に言えば「楽器を演奏する前段階として、ちゃんとソルフェージュが出来て、楽譜を歌えるようになりなさい」という事でしょうか。当時のスペインの音楽教育はカント・ヤノ(canto llano / 単旋律聖歌)、カント・デ・オルガノ、コントラポント(contrapont / 即興演奏、多声音楽の演奏)、コンポストゥーラ(compostura / 紙の上での作曲)という4段階を踏んで進められました。

オンライン 通奏低音、リュートソング、アンサンブル、古楽、音楽教室 リュート クラシックギター ウクレレ 池袋 蕨 川口 東京 埼玉 レッスン バロックギター ビウエラ

隣の弦との音程間隔。(赤枠は筆者による)

楽器の向きが反転しているので少々戸惑いますが、向かって上が1弦で、下が6弦となります。そしてそれぞれの弦の上に「la mi ut」と小さな文字が乗っかっていますが、これは当時のソルミゼーションのシルブルとなります。ソルミゼーションは主に中世からルネサンスあたりまで用いられていた読譜法の一種で「ut re mi fa sol la」の6つシラブル(現在のドレミの先祖)を用いていました。赤枠で囲っているように、1 – 2コースは la-mi(すなわち完全4度)、3 – 4コースは ut-mi (すなわち長3度)、5 – 6コースは sol-re(すなわち完全4度)の音程間隔で調弦する事を示しています。

オンライン 通奏低音、リュートソング、アンサンブル、古楽、音楽教室 リュート クラシックギター ウクレレ 池袋 蕨 川口 東京 埼玉 レッスン

ヴィリャンシーコの伴奏楽譜。赤数字が歌のメロディー。

なおミランのタブラチュアはイタリア式とフランス式をミックスしたスタイルで、線の上から1-6コースを示し、フレットのポジションは数字が用いられました。これは現在ポピュラー系で用いられるタブ譜とほぼ同じスタイルです。またビウエラ伴奏の歌曲で用いられる楽譜も非常に特徴的でした。フランスやイギリスで当時出版されたリュート歌曲は、別の段を設けて歌パートが五線譜で書かれますが、ミランのスタイルではタブラチュア上の赤い数字が歌のメロデイを表しています。紙が貴重だったので、節約の為にそのようなスタイルになったのでしょうが、タブラチュアを読めない人が歌うには少々大変でしょう。なおこの方式はミラン以外の他のビウエラ曲集でも見られるので、スペインでは一般的であったのかも知れません。