クラシックギターは右手の爪を延ばして弾くのがオーソドックスなスタイルです。複弦のリュートや19世紀ギターのような弦のテンションが低い楽器は指頭(指先の肉)でも弾かれますが、弦のテンションが高いモダン楽器で爪無しは稀でしょう。
指先の肉でキャッチした弦が爪にぬけ、弦がリリースされた時に音が出る、というのが弾弦の大まかな流れです。爪弾くと言っても、爪の先だけで音を出しているわけではありません。指頭より爪の方が硬さ(約2.5H)があるので、発音がはっきりしますし、音量もより大きくなります。また指頭で弾弦するより弦の指離れが良いので、トレモロなどの速いパッセージも弾きやすくなります。
そんな右手の爪ですが「伸ばせばそれで使える」というわけでは当然ありません。どのような長さ、形状、角度で削るかによって、また削る道具(金属ヤスリ、ガラスヤスリ、サンドペーパーなど)の種類によって、弾きやすさや音質がダイレクトに変化します。p,i,m,a指はそれぞれの長さが異なるので、それぞれが適正で、かつ全体のバランスも取れている必要があります。右手の爪も楽器の一部、と言われる所以です。
初めのうちは細々した事がわからないので、教わりながら最適な爪を探していくわけですが、実は爪の形状(硬軟度、生える向き、アールの角度)は人の顔と同じくらい個人差があります。例えば、爪先の白い部分の長さがAさんにとっては1mmくらいがいい塩梅だったとしても、Bさんにとっては短すぎる、ということも十分に有り得る訳です。削り方の大まかな方向性はあるので、教本やインターネット等で紹介されている形や長さが参考にならないわけではありませんが、それを真似ても上手くいくとは限りません。
個人差も大きい事ですので具体的な削り方については割愛しますが、全ての人にとって共通して大事な事があります。それは「自分がどのような音で弾いているのか」と関心を持つ事です。爪の形がどうこうの前に「変な雑音は出てないか?」「綺麗な音か?」「キンキンした硬い音ではないか?」「音は太いか?」「痩せた音じゃないか?」などを常に耳で聞き、判断するのです。この「自分の音を聞く」作業は爪を削る以外にも、楽器を習得する上で必要不可欠な要素です。他人にいくら指摘されても、自分自身が気をつけないと何事も始まりません。
そして「こうした方が良い、ああした方が良い」と試行錯誤の末、だんだんと自分にとって理想的な形状を見つけていくことになるでしょう。まあ、焦らず気長に取り組んだ下さい。理想的な形を見つけても爪は日々伸びますので、今日は少し削りすぎて音がイマイチ、なんて日もあるのもご愛嬌です。なお左手の爪は短く切り揃えてあげましょう。特に人差し指などは指先端の肉が他の指よりも薄い分、少し伸びただけでも指板にあたって押弦がやり難くなります。それに気づかず力まかせに押弦していたら、右手もこわばったりしていい事がありません。